サイバーセキュリティは「AI vs AI」の局面に 求められる「マシンスピード防御」
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Oracleが開催した「Oracle AI World 2026」にゲスト出演するOpenAI CEO サム・アルトマン氏(左)と、Oracle CEO クレイ・マグワイク氏(右)。AIの攻撃にはAIの防御が必要だとアピール
連日、新聞やテレビを含めた多くのメディアで「ユーザーデータの漏えい」、「社内ネットワークへの不正侵入」といった穏やかではないニュースが繰り返されている。それだけ多くの企業のITシステムで、悪意のある攻撃者による不正アクセスなどが起きているのが現状だ。
どうしてこういう問題が起き、なぜ多くの企業で対処が遅れてユーザーデータの漏えいなどが起きているのだろうか? 理由は一つではないが、いま注目されているのは、攻撃する側がAIを利用しているということだ。
そうした中で、防御側となる企業はどうしていけばいいのだろうか? 簡単に言えば、防御側もAIを使って防御する。その必要性がますます高まっている。
「バグのないソフトウェアはない、まだ見つかっていないだけ」
「バグのないソフトウェアはない、まだバグが見つかっていないだけ」というのが、ソフトウェア産業で有名な格言だ。バグというのはソフトウェアの欠陥のこと。問題なく動いているように見えているソフトウェアでも、欠陥が見つかっていないだけで、常に欠陥があるものだと想定して対処しなければいけないという意味だ。
ソフトウェアでは、例えば、単に「Hello World」と表示させるだけのプログラムも、それをディスプレーに表示させるためのコードを書き、コンパイルと呼ばれる処理でマシン上で実行できる形式に変換して、コンピューターにロードして動作させる。
前述のHello Worldを表示するプログラムであればコードは数行だが、現在の複雑なコンピューターのOSであれば、数万行とか数十万行、数百万行というコードになり、非常に複雑になっているため、どうしてもバグが存在することが避けられない。
現在のソフトウェアでは、そうしたバグによってコンピューターが止まる、といったものだけでなく、攻撃者の侵入を許す脆弱性になっている場合がある。攻撃者はその脆弱性を見つけて、そこを攻撃するプログラムを作り、そのコンピューターに何らかの手段を利用して攻撃用のソフトウェアをロードしようとする。それが不正アクセスや情報漏えいが発生するメカニズムと言える。
それを防ぐために防御側ができることは、その脆弱性をふさぐためのソフトウェアのアップデート、ソフトウェア業界の言葉では「パッチ」(ソフトウェアの脆弱性修正版)を当てることだ。
これまでは脆弱性が発見されてから悪用までにはそれなりの時間があった
通常、IT業界ではこうした脆弱性が発見されると、それがソフトウェアベンダー自身に報告される。その脆弱性には、米国のMITRE社が管理しているCVE(Common Vulnerabilities and Exposures)という番号がつけられ、以降、当該のソフトウェアベンダー、対策を行なうセキュリティ企業、そしてその脆弱性を発見したホワイトハッカーなどの間で非公開を前提としたやり取りの中で、対策がとられる。
トレンドマイクロのZero Day Initiative(脆弱性の発見から発表までのゼロデーの取り組み)、こうした取り組みにより脆弱性を発見し、ソフトウェアベンダーに水面下で通知し、パッチの提供やCVEの公開などへの流れ
そしてソフトウェアベンダーがパッチをリリースしたのと同じタイミングで、CVE番号とともに脆弱性が公開される。攻撃者はこの段階でCVEの存在を知るため、そのタイミングで直ちにパッチを当てていれば、その脆弱性を突かれることはない。
ホワイトハッカーが発見したバグはソフトウェアベンダーに通知され、対処が始まる。このCVE-2023-21608の場合には22年11月4日にソフトウェアベンダーに通知が行なわれている
ソフトウェアベンダーがパッチをリリースしたのが2023年1月10日で、通知から約2カ月
研究者による検証と対策の公開が23年2月2日
攻撃者による攻撃プログラムの存在が確認されたのは23年10月2日で、ベンダーへの通知から約11カ月後
CISAのKEV入りが23年10月10日
例えば、昨年の8月に米国で行なわれたBlack Hatというイベントでセキュリティ企業のトレンドマイクロが公開したAdobeソフトウェアの脆弱性(CVE-2023-21608)の事例では、トレンドマイクロに協力しているホワイトハッカーが見つけた脆弱性を、22年11月4日にAdobeに通知、Adobeが23年1月10日にパッチをリリースし、同2月2日に研究者が対処策を公開している。
つまりこの時点で、世界中のセキュリティ担当者が問題の存在を知るが、同時に攻撃者もその存在を理解するということだ。
それに対処するために、CVEが公開される前にパッチが作られ、CVEの公開と同時かその前にパッチを適用する必要がある。
トレンドマイクロによれば、実際にその脆弱性を利用する攻撃プログラムの存在が認知されたのは23年10月2日で、10月10日にはCISA(米国サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁)が、CVEをKEV(悪用が確認された既知脆弱性)のカタログに追加したことが明らかになっている。
ここで重要なことは、脆弱性が発見され、パッチが公開され、CVEとして公開されてから、実際の攻撃が観測されるまでにはそれなりの時間がかかっていたということだ。
脆弱性の発見から実際の攻撃が観測されるまで約11カ月。つまり防御側はそれまでにパッチを当てておけば対処できた。
これがこれまでのサイバーセキュリティでの、防御側の基本的な考え方だった。
だが、今サイバーセキュリティの現場で起きていることは、そうした常識を覆している。
あるセキュリティ企業の関係者によれば「AIやAIエージェントがこれまで人間が見つけられなかった脆弱性を見つけ、防御側が対処する前に攻撃が行なわれている」という。
新しいサイバー攻撃に対処するにはマシンスピードで対処する必要がある。SICWで講演を行なうシンガポール 上級大臣 兼 国家安全保障担当 調整大臣 兼 内務大臣 K・シャンムガム氏
従来であれば、人間が脆弱性を見つけ、攻撃プログラムを書いていたため、脆弱性が発見されてから攻撃プログラムの登場まで、数週間や数カ月のレベルで時間がかかっていた。しかし、今はAIが脆弱性を探しに行き、見つけたらAIで攻撃プログラムを作るため、攻撃までの時間が圧倒的に短くなっているということだ。
これに対処する方法は、シンプルに言えば防御側もAIやAIエージェントを使って防御するということだ。
シンガポール政府のサイバーセキュリティ庁(Cyber Security Agency of Singapore:CSA)が10月14日からシンガポールで開催したサイバーセキュリティのイベント「Singapore International Cyber Week(SICW) 2026」では、シンガポール政府によるこうしたAIを利用したサイバー攻撃に対応する新しい指針となる「シンガポール・サイバーセキュリティ戦略2026(Singapore's Cybersecurity Strategy 2026)」が発表された。
その中でシンガポール政府は「新しい脅威にはマシンの速度で対処すべきだ」と、防御側もマシンの速度、つまりAIやAIエージェントを活用して防御すべきだと指摘している。
防御側もAIベースのセキュリティツールが必要に
また、先週Oracleが開催したAIイベント「Oracle AI World」の基調講演にゲスト出演したOpenAI CEO サム・アルトマン氏は「この状況を乗り越えるには、問題を見つけて修正することに尽きる。トラフィックを継続的に監視し、脆弱性が悪用されないようにすることが必要で、新しい種類のサービスも必要になるだろう。AIがどれほど多くの脆弱性を見つけているのか、その数には驚かされる」と述べ、現在の問題に対処するには防御側もAIを利用して脆弱性を見つけて、AIがそれを修正する仕組みを採用することが重要だとアピールした。
OracleのAI Security Mesh
前出のOracle AI WorldでOracleとOpenAIは「AI Security Mesh」というAIを活用したセキュリティツールを発表している。クラウド環境のインフラとアプリケーションソフトウェアをスキャンし、攻撃経路を特定し、コードの構成や修正案を、AIが生成して適用する仕組みだ。今後こうしたマシンスピードで、防御する仕組みの充実が急速に図られることになるだろう。
「AI vs AI」のような構図のセキュリティ攻防は、数年前から予想されていた。しかし、予想よりも早く現実になっており、昨今のデータ漏えいや不正アクセス、ランサムウェアによる攻撃の激化などもつながっている。
ソフトウェアのなかった時代に戻るのは不可能だが、対処策も存在する。それが、防御側もAIを使ってマシンスピードで対処すること。企業のセキュリティ担当にとっては、そうしたソリューション導入はもはや待ったなしといえるだろう。
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