病院の給水システムが原因で患者40人が細菌に感染
集団感染の原因となったのは、結核菌とは異なる「非結核性抗酸菌」の一種であるアブセッサス菌(Mycobacterium abscessus)です。アブセッサス菌は水や土、ほこりなどに生息し、健康な人には通常害を及ぼしませんが、肺に持病がある人や免疫機能が低下している人には肺の感染症を引き起こすことがあります。ロイヤル・パプワース病院は心臓・肺の移植や呼吸器疾患の治療を行う専門病院で、こうした感染症のリスクが高い患者を受け入れています。
ロイヤル・パプワース病院は2019年5月に新しい建物へ移転し、同年8月には、肺の移植を受けた患者2人からアブセッサス菌が検出され、病院側が感染源の調査を開始。院内の水を検査したところ、同年11月には給水システムからもアブセッサス菌が見つかったとのことです。

研究チームは患者の検体と、2019~2025年に院内の水や設備から採取した検体を分析し、アブセッサス菌の遺伝情報(ゲノム)全体を比較しました。院内の水から見つかった菌と同じ系統の菌が検出された患者を集団感染に関連する症例として集計したところ、2019年5月から2026年6月までに40人が該当したとのことです。
40人の内訳は、肺の移植を受けた患者が11人、粘り気の強い粘液が肺などにたまる遺伝性の病気「嚢胞(のうほう)性線維症」の患者が11人、嚢胞性線維症を伴わない気管支拡張症の患者が14人、その他の患者が4人でした。なお、気管支拡張症は気管支が広がり、たんがたまりやすくなる病気です。
ただし、アブセッサス菌が検出された40人のうち、非結核性抗酸菌による肺の感染症と診断されたのは19人でした。ロイヤル・パプワース病院の医療責任者であるイアン・スミス氏は、感染後すぐに症状が出る人もいれば、何年もたってから症状が出る人や、全く症状が出ない人もいると説明しています。
一方、肺の移植を受けた女性2人は感染後に死亡。検死官は2022年の(PDFファイル)報告書で、2人の感染源は病院の水であり、アブセッサス菌への感染が死亡につながったと判断しています。
病院側は感染を防ぐため、洗面台の蛇口やシャワーにフィルターを設置し、感染症のリスクが高い患者にはボトル入りの飲料水を提供しました。水に含まれる菌を減らすため、給水システムに過酸化水素を加える設備と、水に紫外線を照射する装置も導入しています。

こうした対策の導入後、集団感染に関連する新たな症例は年間12.8件から2.2件に減りました。給水管内の水を流す作業の見直しが行われた2025年6月以降、調査対象期間の2026年6月まで新たな症例は確認されていないとのことです。
しかし、イギリス保健安全保障庁が2022~2025年に院内の水や設備を再び調べたところ、フィルターを通した水からはアブセッサス菌が検出されなかったものの、排水口やトイレの水、排水管内に水をためる「排水トラップ」などからはアブセッサス菌が見つかりました。また、2025年5月の調査ではトイレの水4検体全てと、トイレを流した後に採取した空気3検体全てからアブセッサス菌が検出されています。
研究チームは、対策を行うことでアブセッサス菌への感染を減らすことはできたものの、給水システムからアブセッサス菌を完全に取り除くことはできなかったと報告し、感染症のリスクが高い患者を受け入れる施設では給水システムを介した感染を防ぐ対策が必要だと指摘しています。
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